しょうちゃんのつれづれ日記

日々のお仕事、趣味の将棋と音楽関連(ピアノ・作曲)、読んだ本の感想および社会問題や国内外の政治・経済等に対する批判的な論評(ショウノミクス)などの内容が中心になります。

「破船(吉村昭)」

はてなブログの皆様、新年明けましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になり、感謝しています。本年もどうぞよろしくお願い致します。
今年最初の投稿は、しょうちゃんの読書日記パート40で、吉村昭の「破船」です。以下少しネタバレですが、江戸時代の貧しい漁村の小さな集落で、船が近づくと「お船様」と呼んで灯りを焚いて座礁させ、積んでいる米などの食料を奪って山分けする慣習で、乗組員が生きている場合は皆殺しにしているので、凄惨な光景です。また、この本の記述が事実だとすると、年季奉公は必ずしも子供だけではなく、主人や奥さんが住み込みで数年間出かけることも多かったようです。
後半は「お船様」の乗組員のほとんど全員が天然痘にかかって死んでおり、漁村の多くの人々にうつってしまいます。今でこそ撲滅に成功した唯一の感染症として知られる天然痘ですが、江戸時代には大流行しており、死亡率が非常に高く、失明するケースも多かったことが分かります。最後に、この漁村で天然痘にかかった住民が集団で山に出かけるシーンは深沢七郎の「楢山節考」に通じるものがあり、惨憺たる結末に胸がしめつけられました。吉村昭の感情を交えずに事実を冷静に描写している淡々とした筆致が、かえって悲しみを増幅させているように感じました。彼の他の歴史小説や短編も読んでみたいと思いました。f:id:hshono:20220104194250j:plain